大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)526号 判決

控訴人は、更に、被控訴人が控訴人に会社代表権のないことを知らなかつたとすれば、それは被控訴人の過失によるから民法第一一七条第一項の準用はないと抗弁するので検討するに、もとより被控訴人において事前に会社登記簿を調査すれば容易に会社未成立の事実を知り得たであろうが、一般に会社と取引する者が会社登記簿を調査しないのが常に過失であるとは、当然にはいえない。本件においては、原審証人岩崎郁太郎当審証人戸梶直康(前掲及び後記採用しない部分を除く。)並びに原審及び当審証人鈴木茂一の各証言によれば、本件取引の注文がなされた西巣鴨三丁目の新田工業株式会社事務所の入口には、被控訴会社の担当社員鈴木茂一が控訴人と会見した昭和三九年一月中旬当時には「新田工業株式会社創立事務所」という表示がなされていたが、その後一週間位で右表示は撤去され、その後は「新田工業株式会社」の表示がなされていたこと及び被控訴会社の取引担当者は右各表示に気付いてはいたが、本件取引当時には右会社が未成立であることを知らなかつたことを認めることができる。当審証人戸梶直康の証言中右認定に抵触する部分は採用し難い。ところで、右会社創立事務所の表示は反面会社がまだ成立していないことを示すものであるから、その表示のある当時それに気付きながらこれを看過して取引をしたというのであれば、会社未成立のことを知らないことにつき過失があるともいえようが、本件取引は、前示のように右表示が撤去されそのあとに「新田工業株式会社」の表示がなされた後の昭和三九年二月三日から同年三月六日までの間に行われたものであつて、この事実にさきに引用した原判決理由中に示す諸般の事情を参酌して考量するときは、本件のような比較的敏速に行わなければならない取引で金額も本件程度のものにおいては、右のように会社創立事務所の表示が「新田工業株式会社」の表示に改められた後同会社代表取締役と表示した名刺や同会社の印章を使用し右会社名義で頻繁に出された控訴人からの広告注文を実在する会社の注文で控訴人にはその代表権あるものと誤信し、会社登記簿の調査等をなさず改めて会社成立の事実を確かめないで契約したことについて被控訴会社の担当者に過失があつたということはできない。その他本件にあらわれた全証拠によるも被控訴人の担当者に過失を認めねばならない事実は認められない。従つて控訴人の右抗弁は理由がなく、控訴人は民法第一一七条第一項の規定に準じ、被控訴人の選択に従い、右契約について履行の責を負わなければならない。

(小沢 岡田辰 舘)

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